聖翔学園物語 - 高等部生徒会編 -

聖翔学園物語 入学式騒動 2

「なんでこんなに遅くなったんだ?」
新一の言葉に、和紀は大股で新一に歩み寄り、机を挟んで彼の前に仁王立つ。そして勢いよく、手にしていた数枚の紙を彼の鼻先に突き出した。
「これっ!頼まれてた仕事っ!」
対照的にゆっくりとそれを手にした新一を睨みつけ、両手を腰に当て胸を張った。
「たいっへんだったんだからなっ!そういうの考えるの得意じゃないしっ」
どこか自慢げな彼に目を向けることはせず、新一は手にした紙に目を通す。
きちんと清書されているものの、何度も推敲したのだろう、という苦労の後がよくわかる文章である。といえば聞こえはいいが、定型的な文章が連なり、突然独創的な言い回しとなったり、前後の脈絡がよくわからなかったり。
なんだこれは、と叫びたいのをぐっと我慢し、心を静めようと目を閉じた。
彼に頼んだのは、本日行われる入学式での生徒会長からの祝辞の草稿。
彼がこういったことを不得意としていることは重々承知していたが、何事も経験とばかりに、無理やり押し付けた仕事である。
嫌がる彼を説き伏せ、どうなってもしらないからな、という捨て台詞を吐き捨てつつもようやく承諾したのが、およそ1週間前。
そして、1週間という期間を経て、ようやく出来上がったのがこれである。
ある程度予想はしていたが、まあ、ここまでひどいとは。
頭を抱えんばかりに激しく落ち込む彼の心境に気づかない和紀は、どうだ参ったか、とばかりに満面の笑顔である。
「とりあえず書き上げた。これでいいよな?」
「・・・ああ」
ここで駄目出しをすれば、二度とこの手の仕事を引き受けないだろう。それは彼の立場上、非常に不味い。
だったら時間も無いことだし、とりあえず今回はこれで受け取ろう。保険も掛けておいたことだし。
ひきつった笑いを見せる新一にはきづいていない和紀は、よかった、と、大きく伸びをする。
「みんなは講堂?」
予定では、生徒会メンバーは入学式会場の設営を手伝うことになっている。
この仕事で寝坊することさえなければ、とっくに和紀もその手伝いを行っているはずだった。が、やりなれない仕事のせいで寝坊してしまったのは、痛恨の極み。ここは人の倍以上に働いて挽回せねば。
先ほどまでと違って、瞳が生き生きと輝く。
設営は力仕事。草案作成とは異なり、それは彼の得意分野であるからだ。
そのことは知っている。知ってはいるが、その得意分野と不得意分野を今すぐ交換してほしいと心の底から願っている新一は、頭痛を感じて眉を寄せた。
「・・・零と諒は他に用があって後から合流するが、他はそのはずだ」
「じゃ、俺も手伝ってくる」
「・・・ああ」
もはや止める気も起きない。
嬉々として部屋を出て行こうとする彼の背中を睨んでいると、その扉の向こうから長身の男性が姿を見せた。
「和紀、来たのか?」
彼が和紀に声をかける。
「ああ、俺も講堂行ってくるよ」
その脇をすり抜けて、和紀は廊下に飛び出した。
「ああ、でもそろそろ終わって・・・聞いてないな」
彼の小さい呟きに、新一は髪に指を埋めてうな垂れた。
人の話を最後まで聞かない正確も相変わらずだ。
落ち込む新一の様子から、たった今交わされていたであろう二人の会話を察した彼は、軽い苦笑を唇に浮かべた。
「和紀は?」
廊下を走る和紀の背中を見送る彼は、部屋の中の新一にそう問いかけた。
「寝坊だそうだよ」
ため息交じりの新一の返答になるほどとひとつ頷くと、部屋の中に入ってくる。
彼は新一から離れたところにある机に向かい、その上に置かれた紙を一枚取り上げ、颯爽と新一の椅子に近づき、それを手渡す。
「頼まれてたもの」
「ああ、助かった」
手渡されたものに軽く目を通し、ひとつ頷くと、それを自身の机の上に置いた。
「おまえの用件は終わったのか?諒」
ああ、と頷いた彼の瞳に、一瞬だけ、それも微かではあったが、喜びの色が浮かんだ。
彼のこんな感情を目にするのは初めてで、新一は内心驚いた。
けれどはっきりと浮かび上がった重い現実が、彼を引き戻す。
とにかく、なんとかしなければ。
今後あの手の仕事を全部任せるか。
いや、それでは他の仕事まで滞ってしまうのは目に見えている。
「どうしたもんかなあ」
ひとりごちる彼の言葉は諒の耳に届いたようで、怪訝そうに見つめてくる。
これ、と、手にしていた紙を渡した。
「おまえも知ってるだろ?和紀に出した宿題だ」
草案か、と答え、そこに並ぶ文字に目を落とす。
文字を目で追うにつれ、諒の唇がゆがんでいくのを見て、新一は今度こそ大きなため息をついた。
「・・・笑ってかまわないよ」
吹き出しはしなかったものの、こらえきれずに少しだけ息を吐き出すと、これはひどいなと呟いた。
「アドバイザーつけなかったのか?」
草稿を返しつつ、諒が問う。
「和紀がどの程度できるのか知りたかったからね」
「それにしても、これはひどいだろう」
「まったくだ」
「教育係の新一としては、頭の痛いところだな」
淡々と紡がれた言葉はそのとおり過ぎて、新一の頭痛はさらに激しくなる。
しかし、今日はそのことは忘れよう。入学式を無事執り行うことが優先だ。
ひとつ頭を振って頭を切り替え、新一は立ち上がる。
「そろそろ入学式も始まる頃だろう。先に行っててくれ。僕も後から行く」
「・・・まあ、和紀の不出来は今日明日でどうにかなるものでもないしな」
「・・・他人事だと思ってるだろう」
鋭い目線で睨む新一など気にした様子もなく、じゃあと手を上げて、部屋を後にした。

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