聖翔学園物語 - 高等部生徒会編 -

聖翔学園物語 入学式騒動 1

生徒会室は、入学式などの式典を行う講堂と、ひとつの学校としては異例なほど大きな図書館とを繋ぐ『特別棟』の一階にある。

一般教室のある教室棟とは離れているので、生徒たちの喧騒は直接は聞こえないが、この特別棟と教室棟の間にはグラウンドが設けられており、いつもなら窓越しに、そこで練習を行う運動部の活動の様子が見て取れる。

しかしこの日は新入生の入学式であり、式の始まりを待つ新入生と保護者たちが立ち話をする姿がちらほらと見えただけであった。


その生徒会室には現在、生徒会長たる永澤新一がひとりでいた。
彼は水沢財閥の総帥を補佐する立場、いわゆる「セカンド」の家に生まれ、その後継者の地位にある。
その彼の地位と、何よりも彼の実力・人脈をも考慮した上で、生徒会長に任命されたのである。

いつもならこの生徒会室には他にも誰かがいて、かなりの高確率で何かしら騒いでいたりする。
それはそれで楽しいのだが、珍しく静かな時間を過ごすことができたことに、ちょっとした満足感を味わっていたのも事実だ。


だがそれは不意に破られた。
遠くからだが微かに聞こえてくる音は確実に近づいてきており、新一は整えられた眉を軽くひそめた。
この音、リズムには、心当たりがありすぎた。


普段優しげで温和な風貌の彼にしては珍しく、眉間にしわを寄せてふぅとため息をついた。

(もう少し静かにできないのものかなぁ。)

毎度のことだが、ぼんやりとそう考える。

もう少し生徒会の一員たる自覚を持ち、他生徒の模範になるように生活態度と普段の行動を改めろ、と、本人には口を酸っぱくして毎回小言を言っているのだが、まったく効き目がない。

そうしている間にも、その音はどんどん近づいてくる。

机に頬杖をついて扉を見つめていると、その音は扉の前で止まった。
と同時に、乱暴に開かれた扉が悲鳴を上げた。


それを行った人物は、部屋と廊下の境界線ではぁはぁと肩で息をし、しばらく呼吸を整えていたが、一連の動作を新一が見ていたことに気づくと、部屋の中に入ってきた。

「悪い、寝坊した」
「寝坊、ねぇ」

新一は冷ややかな瞳で彼を見た。

気まずさからか視線を外し、薄茶色の瞳は新一を写さない。
前髪はぴったりと額に張り付き、上気した頬は赤い。
どうやらかなりの距離を走ってきたようだ。

だが、部屋の中に新一以外誰もいないことに気づいた彼は、視線を新一に移した。
もしかしたら、自分以外にも遅刻がいるのかも。
そう期待を込めた瞳が、少しだけ輝いた。

「なに?誰も来てないの?」
「そんな訳あるか」

今度こそ、これ見よがしにため息をついて、彼を軽くにらむ。

「皆、用があって出てるんだよ。顔を出したのはお前が最後だよ、和紀」

和紀は今度こそがっくりうなだれる。

彼の名は多岐沢和紀。現生徒会の副会長のひとりである。
生来の明るさと人懐っこさで人望はあるものの、どこか頼りなげで、肝心なところが抜けていると感じるのは、自分だけなのだろうか、と、真剣に悩む新一だった。

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