興来国奇譚

興来国奇譚 14

笙耀急死の一報は、翌日には国中を駆け巡った。

先王の治世を知る者で、時の名宰相笙耀の名を知らぬ者はない。
かの時代を懐かしむ者は特に、その死を悼んだ。

葬儀は故人の意思もあり簡素だった。
だが、顔の広い笙耀の葬儀である、弔問客はひっきりなしに訪れた。
延笙をはじめ、家人達は皆その対応に追われ、悲しむ間もないほどだ。
ただひとり、祐榎だけはずっと笙耀に付き添い続けていた。

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葬儀も無事終わり、延笙は重々しいため息をついた。

秀慧は顔を見せるだろう事は予想できていた。
しかしまさか秀慧だけでなく、祥伯までもが訪れるとは!
正直、王が訪れるとは露ほどにも思っておらず、その驚愕は計り知れなかった。

前王の宰相に敬意を表したといえばそれまでだ。
だが、王が臣下の葬儀に顔を出すことは、かなりの異例。
そして、先日の話もある。
笙耀を弔問することで、叛意を持つ輩への牽制の意味もあったかもしれない。

それでも、宮殿内からは、参列に反対する意見もあったのだろう。
でなければ、王が忍び姿で、秀慧のみを伴って、こっそりと訪れることはないはずだ。

王が弔問に訪れたことは全ての者が気づいていた。
その姿を目にした皆が皆、顔中に驚愕の色を浮かべた。
しかし忍び姿の王に大げさな礼をすることは憚られ、そそくさと逃げていった。

秀慧は、倒れそうなほど顔色の悪い祐榎を気遣わしげに見つめていた。
だが、王の供としての職務がある、声をかける事も無く祥伯とともに引き返していった。
もっとも、あの祐榎の様子を目にした彼だ、後ほど再び訪れるだろうけれど。

それよりも、と、傍にいる妹を見つめた。
憔悴しきった祐榎の姿は痛々しい。
そして笙耀を看取ったあの時を最後に、祐榎は涙を見せていない。
そのことが気がかりでならない。

葬儀の間は気丈に振舞ってはいたが、それもそろそろ限界のようだ。
このままでは倒れてしまうと感じた延笙は、彩季に命じて祐榎を部屋に引き上げさせた。


そこへ、家人のひとりがそっと言伝を持ってきた。
秀慧が来ている事を告げ、祐榎に会いたいと言ってきている、と。
祐榎の部屋に通すように伝えると、家人はひとつ頷き、姿を消した。


だがこの日、いつもの彼ならすぐに気づいたであろう事に、この時の延笙は気づいてはいなかった。

祐榎を見た祥伯の、その細められた瞳に宿った感情に。
獲物を狙うように歪められたその唇に。
彼の心の中に生まれた、どす黒い感情に。

王の登場によほど動揺していたのか。
もしくは父の死の衝撃が彼の洞察力を鈍くさせていたのか。
この時に気づかなかったことに、激しい後悔を抱くことになることを、彼はまだ知る由もない。

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