興来国奇譚

興来国奇譚 10

太陽の光がその名残を残し、地平線の向こうに姿を消してしまった。赤い光が空を、そして白い雲を染めていた。

城下に広がる町中では、皆足早に帰路についている。
闇が辺りを支配する前に家にたどり着きたいのだろう。
それは宮殿内も同じであり、早々と灯されたロウソクの明かりは当直の者には寂しささえ感じさせた。

一日の仕事を終え、宮殿に残っていた役人も一人二人と帰って行く。
そのほとんどが正門を通って行くのは、彼らのほとんどが城下に住んでおり、その城下の大通りに向け門は開かれているからであろう。
他にいくつかある門は、それよりは幾分小さく、それでも城下に接している。
もちろん、そこを通る者もいる。

正門に面した宮殿の入り口で、延笙は空を仰いだ。
今日一日いろんなことがあったが、とりあえずつつがなく過ごせた。

さて帰ろうかと思っていたとき、背後から自分を呼ぶ声がした。
振り返ると、親友が駆け寄って来るところであった。
延笙は立ち止まり、彼の到着を待つ。

「よ、帰るのか」

駿雷は息を乱すこともなく親友の肩をたたく。

「ああ。今日は当直でもないしな。祐榎一人では心もとないだろう、取り敢えずは家にいたほうがいい」
「そうだな」

ちょっとばかり考えて、駿雷は言った。

「延笙、俺も行っていいか」
「おまえが?」

延笙は首を傾げる。
彼が知る限り、駿雷が好んで屋敷に訪れたことはない。
その一つには、来るたびに父笙耀に説教を受けるからであったのだが。

「おれもさ、笙耀殿に見舞いたいし」

照れながら言う彼に、そういうことかと納得する。

「わかった。では父上を見舞った後、酒でも飲もうか」

これにはさすがの駿雷も苦笑した。

「苦しんでいる父親をよそに、自分は酒を飲もうって?」
「私が案じていても仕方ないことだよ。おまえと話し合いたいことがあるだけだ。そのかわり深酒はしないからな」

笑いながらは二人は連れだって笙耀の屋敷に戻る。
出迎えた祐榎とともに、三人は笙耀の私室を訪れた。

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