君に出会うために - 聖翔学園物語 -

君に出会うために 7 - 自分の居場所 -

 入学式が終わると、新入生は各教室へと移動となった。
 教室では既に席が割り当てられて、その席の持ち主を示す名札とともに、薄い資料が乗せられていた。
 席の並びは五十音順。
 鈴鹿は自分の席を探すと、教室の中央の列、後ろの方に自分の名前を発見し た。
 自分の名があることにほっとして、その名札を撫でた。
 自分はここにいて良い存在なのだ、と、この名札が伝えてくれている。この時になってようやく、自分がこの学園の生徒なんだという実感が沸いてきた。
 すぐ傍で名前を呼ばれ顔を上げると、唯が微笑みながら軽く手を振っていた。どうやら隣は唯の席であり、その後ろが香奈の席のようだ。
「よかった、唯ちゃんも香奈ちゃんも近くで」
「ほんとだね。偶然ってすごいね」
 言いながら、唯は笑った。
 全員が席に着くと、担任教師が教壇に立った。
 その男性教師はかなり若く、緊張で頬が強張っているように感じられた。
 それもそのはず。簡単な自己紹介の中で、彼は新任である旨を告げたのだ。
 授業ガイダンスや自己紹介等々は明日行うこと、机の上の資料は明日までに読んでおくこと、そして簡単な注意をすると、この日の行事は終了となった。

 配布された資料をカバンにしまっていると、文字通り香奈が飛んできた。
「鈴鹿、もう帰る?」
 キラキラと瞳を輝かせる香奈の表情を見ると、どんな用件なのかはすぐにわかった。
 明日で良いと口にはしたものの、やはり答えを早く聞きたくてうずうずしていたのだろう。隠し事は苦手らしい。思っていることはすぐ顔に出る性格のようだ。
 零のことは秘密にしていることではないし、隠すことでもない。
 だから極々簡潔に「零は従兄だよ」と鈴鹿は答えた。
「なぁんだ。従兄なのかぁ」
 その答えは彼女が期待していたものではなかったようで、軽く唇を尖らせて、つまらないと言いたげに呟いた。
 既に興味がなくなったのか、それ以上追求する気はないようだ。代わりに、くるくると大きな目が鈴鹿を写す。
「鈴鹿は奨学生だよね。ということは、鈴鹿はどこの財閥とも関係ないんだ」
「え?ないけど。どうして?」
 次の興味の対象は、鈴鹿本人になったようだ。
 私はあんまり気にしてないんだけど、と前置きしておいて、そっと声のトーンを落として呟いた。
「やっぱり、いろいろとあるんだよ。財閥とか、派閥とか」
 言いつつ、鈴鹿の横、唯の席に座り、顔を寄せる。
「親の立ち位置とか、利害関係とか、いろいろあるから。親同士の話とはいえ、ううん、だからなんだよね。影響ないとはいえないんだよね」
「香奈ちゃんとこも?」
「うちの親は、羽柴財閥の重役。唯のとこもそう。羽柴は特に、横のつながりが強いからね」
 肩を竦める香奈は事も無げに言うが、その意味することは大きく、鈴鹿は目を見張る。
 世界を支配する財閥は6つあるが、その中でも最大のものが「羽柴財閥」。
 その力は強大で、世界の1/3を支配しているといっても過言ではない。
 その羽柴財閥の重役の娘ならば、自分とは身分の差が大きすぎる。


「こりゃ」


 パチンと、香奈は鈴鹿の眉間を指で弾いた。
 手加減していたようで痛くは無かったが、鈴鹿を現実に戻すには十分な衝撃だった。
 目をパチパチとさせる鈴鹿の顔を覗き込み、香奈は苦笑した。
「今考えてたことわかるよ。でも、私は私。親は関係ないし、鈴鹿と同じ人間だから。住む世界が違うとか思わないでね」
 考えていたことをすっかり悟られていたことに気づき、鈴鹿は顔を赤らめた。
 香奈の態度からしても、そう考えていてくれたことはわかりそうなはずなのに。
 だがそれだけ、「羽柴」は脅威の存在なのだ。
 そのことを、香奈もわかっているからこそ、わざわざ口に出して言ってくれたのだ。それに気づき、心から感謝をした。
「うん、わかった。ありがと」
「ん」
 満面の笑顔で、バンバンと肩を叩かれ、その痛みに顔をしかめながらも、鈴鹿の心も軽くなった。
 だが次の瞬間、相手の顔が不意に消え去り、鈴鹿は驚きのあまり表情を固まらせる。
 代わりにそこにあったのは、目を細めてこちらをみている唯の顔。
「な~に青春してるのかな?」
 仲間外れは嫌よ、と、その顔にはしっかりと書いてある。
 唯は両腕を顎の下で組んでおり、その腕の下では香奈がもがいていた。
「唯っ!重いっ」
 完全に不意をつかれたらしく、香奈は完全に下敷きになっている。
 香奈の抗議をものともせず、唯はそこから動こうとはしなかった。
 全身の体重を集中させて香奈を押さえ込み、しかしその労力を微塵も感じさせない。
 涼しげな顔はニコニコと鈴鹿に笑いかけていた。
 どうやら顔に似合わず、なかなかいい性格をしているらしい。
「わたしもだからね~!鈴鹿ちゃん、仲良くしてね」
「重いって!」
 唯を押しのけて、ようやく香奈が顔を上げた。
「いきなり何すんの」
「香奈ちゃんが抜け駆けするからでしょ」
「唯は隣の男子と話してたでしょ」
「こちらの方がおもしろそうなんだもん」
 言い合う二人を見て、思わず笑いがこぼれた。
 そんな鈴鹿に気づき、二人は顔を見合わせると、どちらからともなく声を立てて笑い始めた。

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