君に出会うために - 聖翔学園物語 -

君に出会うために 4 - 守るために -

「・・・こっちが教室がある教室棟、特別教室がある特別棟と教務棟、その隣の大きな建物が図書館。・・・って、聞いてるか?鈴鹿」
 指さしながら丁寧に教えてくれるのはいいものの、それよりも気になるのは、このちくちくとした視線。
 これまで別々の学校に通学していたから、こういう類のものはほとんど気にならなかった。
 唯一、従兄とと二人で出かけたときに、すれ違う女性が意味ありげな視線を送ってくるぐらいのもの。
 それも、ほんの一瞬だったので、すぐにそんなことは忘れていたぐらいの些細なもの。
 なので、ここまであからさまに感じるのは初めてで、気にするなというほうが無理というものだ。

「高塚!」
 背後からかかる声で、隣を歩いていた従兄が足をとめた。それにならい、鈴鹿も足を止める。見上げると、ちょっとうんざりするような、けれどどこか楽しげな従兄と目が合った。
「高塚、その子、お前の彼女?」
 自分たちの会話を周り聞かれるには十分な音量で、その声の持ち主が言う。
 振り返ると、獲物を見つけたかのように目をキラキラと輝かせ男が立っていた。
そこそこ背の高い従兄と同じくらいの背丈があり、スポーツマンなのか、制服の上からもがっしりとした体格であろうことが予想できる身体つき。その存在だけで、圧力を感じる者もいることだろう。
 先ほどまでの騒然とした空気が、一瞬で変わった。
 辺りに目を向けずともわかる。周囲はこの会話に全神経を傾けているに違いなかった。それぐらい、不自然な空気と静けさが辺りを支配していたのだから。
 従兄が何を言うのか気になったが、彼が発した言葉は、ごくごく簡潔だった。
「違う」
「なんだ、違うのか」
 彼は鈴鹿も拍子抜けするほどあっさり納得し、じゃあ何者だ、と、目で問いかける。
「従妹だよ。妹みたいなもの・・・そうだ」
 ふと、何か思いついたようで、口角を上げて人の悪い笑みを浮かべる。
「俺、お前にかなりの貸しあるよな。結構大事な試合で助っ人してるし」
「だから?」
「その貸し、全部こいつに回して」
 鈴鹿の肩をポンと叩きながら、従兄は続けた。
「鈴鹿、困ったことがあったら、こいつを使っていいから。運動部全体の主将なんで、あちらこちらに顔効くだろうし。いいよな、篠崎」
 篠崎と呼ばれた男は、苦笑しつつ肩をすくめた。
「それぐらいで貸しがチャラになるなら、全然構わないよ」
「ということだ。もちろん、俺に相談してくれれば乗るけど。・・・目は多いほうがいい」
 後半は鈴鹿の耳にしか届かないくらい、声をひそめて。それに気付き、彼が何を言いたいのかが分かった。
 この視線、先ほどから自分をちくちくと刺すこれが、自分を害さないよう先手を打ってくれたのだ。
 自分は彼の従兄であると先に知らしめ、そのうえで、彼女に危害を及ぼすようであれば、自分や篠崎が黙ってはいない、と。
 降りかかる火の粉は自分で払うつもりだけれど、従兄の好意はありがたく受け取っておこう。
「じゃあ、来週また助っ人頼むよ。貸しがすべてこれに代わるなら、安い安い」
「・・・全部変えるつもりはないけど、まぁ、来週は出てやるよ」
 偉そうに言う従兄に、篠崎は豪快に笑いつつ、背を向けて片手をあげた。
「・・何しにきたんだろうな、あいつは」
 呆れ顔で篠崎の背中を見送っていた従兄がつぶやいた。
 その呟きが聞こえたかのように、篠崎が一度振り返った。
 視線が従兄を捕らえ、にっと笑う。
 その視線を捕らえた従兄もまた、ほんの少しだけ口角を上げたことに、鈴鹿は気づいていた。

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