君に出会うために - 聖翔学園物語 -

君に出会うために 3 - 最高のプレゼント? -

「鈴鹿っ!!」
 自分を呼ぶ声にはっとし、我に返った。
 気付けばいつの間にか、教室棟まで戻ってきていたらしい。
 そこかしこにて談笑するにぎやかな声が聞こえてきたが、今の今までそんなものは鈴鹿の耳には全く入っていなかった。
「やっと見つけた」
 その声の持ち主は足早に近づき、鈴鹿の前に立つと、少しいらだたしげに両手を腰にあてる。
「どこ行ってたんだ。もうすぐ式がはじまるんだぞ」
 整った眉を微かにしかめながらの保護者ぶったその物言いに、思わず笑みがこぼれる。その鈴鹿の表情に、さらに眉間にまでしわを寄せ、鈴鹿、と低くたしなめた。
「ごめんなさい。ちょっと、野暮用?」
「何が、野暮用、だよ」
 ひとりごちる彼の視線が鈴鹿の胸元にむけられ、彼女自身も視線を落とす。
「どうしたんだ、それ」
 持っていたのは、先ほどもらったペットボトル。
 改めてよくみると、それはアップルミルクティーであり、それも鈴鹿が大好きだったブランドのものだった。
 驚きのあまり言葉も出ない鈴鹿に、彼は不思議そうに見つめる。


 初めて口にした時、その自分好みの味に狂喜乱舞し、結構な本数買い占めた。
しかし、期間限定だったのか不評だったのか、ある日を境にほとんどの店から姿を消してしまった。
 以来鈴鹿は、あちらこちらでこれを探し回っていた。
 それが姿を消したのは既に1年近く前のことなのだが、それ以降、現在進行形でずっと付き合わされていた、ひとつ上の従兄は、驚きつつもしたり顔でうなずいた。
「それ買いにいってたのか。なるほどなぁ・・」
 勝手にうんうんと納得し、鈴鹿の返事を待たずに、背を押して歩くよう促した。
 これに関して追及されると思い込んでいた鈴鹿は、心の底からほっとした。彼が再びこの話を思い出す前に、さっさと話題を変えるに限る。
「どこいくの?」
「講堂。入学式出るんだろう?」
「そうだけど、場所教えてくれたら、ひとりで行けるよ?」
 先ほどからチリチリと肌に何かが刺さっているようで、居心地が悪いことこの上ない。
 この種のものが何か、よくわかっている。
 なぜ彼の隣におまえがいるんだ、という妬み・やっかみといった、敵意の視線。
 背が高く、まだ少年っぽさは残っているものの、将来を十分期待させる容貌。それに、生来の人懐っこさが加わわり、見るものを惹きつけてやまない存在。どこにいても人の輪の中心にいるこの従兄は、鈴鹿の自慢でもあった。
 従兄も、本当の妹同然に鈴鹿をかわいがっており、そばに置く。
 しかし、彼にとって鈴鹿は妹以上の感情を持ってはいないようで、その手の質問にははっきりとNOと答えてくれる。
 鈴鹿が彼女ではないことを知ると、その次に取る行動は皆一様なのが、鈴鹿には滑稽でもある。
将を射んと欲すれば、なのだろう。彼女と仲良くなり、あわよくば彼に・・・という者が後を絶たないことは、はっきり言って迷惑だが仕方がない。
 おかげで、鈴鹿の人を見る目はかなり磨かれてきた・・と思っている。
 ここでも注目の的なんだなぁ、と、鈴鹿は心の中でため息をついた。今後の学園生活が平穏であるよう、ひたすら祈るしかないようだ。


 そういえば、と、先ほどの出来事を思い出す。
 先ほどの彼も、従兄に負けず劣らず整った容姿だった。
 それどころか、人を惹きつけるという点では、彼のほうが上かもしれない。醸し出す雰囲気が、存在感が違う。
 彼の声を思い出し、じんと心がしびれた。
 あの声は、自分の心を震わせる。
 
 その時、あ、と思わず声が出た。訝しげに見下ろす従兄に、なんでもないと手を振りつつ、このアップルミルクティーのお礼を言ってないことに気付いた。それどころか、ひとことも口にできず、逃げ帰ってしまったのだ。
(印象悪い、よね)
 沈む心を支えるように、ギュッとボトルを抱き締める。
(次にどこかで出会えたら、ちゃんとお礼を言おう。あと・・・これをどこで買ったか、ちゃんと聞かなくちゃ!)
 それがどんなに遠いところであれ、絶対に買いに行くんだ、と、密かに決意する鈴鹿であった。

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