君に出会うために - 聖翔学園物語 -

君に出会うために 10

「・・・そういうやつだとわかってるけどさ」
 もう慣れているのか、香奈の立ち直りは早かった。
 地獄に叩き落された直後のはずだが、ショックからはすぐに立ち直る。
 冊子を閉じて机の上に放り投げた。
 両手を頭の後ろで組み、身体を後ろに反らし、自分に言い聞かせるように呟いた。
「そんなにうまい話があるわけない、か」
「それはそう。聖翔学園よ。部活動だけしていいはずがないわ」
「まあねぇ」
 はぁとため息をつく香奈に、唯が諭すように告げる。
「聖翔学園、だから?」
 その意味がわからず、鈴鹿は首を傾げる。
 考えるより前に、その疑問は口から出ていた。
 だから?なんなのだろう?
 鈴鹿の疑問に、唯は困ったように眉を寄せる。
「言葉ではしづらいんだけど。聖翔学園の生徒は、上流階級というか、将来的には財閥内でも上層部に籍を置くことになる人が多いの。だから、そこでも恥ずかしくない社交性やら教養やらを見につける必要があるの。そういった教育も徹底してやるのよ」
 ただ、と、唯は続ける。
「奨学生は当てはまらないけどね。奨学生は、その人の才能を伸ばすためのカリキュラムが優先だから。最も、本人が希望すれば別だけど。」
 学園には、学業優秀者だけでなく、芸術・スポーツなどで特別に認められた者に対する奨学生制度も存在している。そちらのことを言っているのだろう。ならば、優先順位が異なるのはわかる。
 しかし、それは自分にもあてはまるのだろうか?
 だったらやはり、学業を優先すべき?
 その時、ふと「成績のことなら、なるようになるわ。奨学生でなくなっても、聖翔に通う方法はいくらでもあるからね」と言った伯母の言葉が浮かんだ。
 別の方法、とは、そういった奨学生制度のことなのだろうか?
 でも、自分にはこれといった特技はないけれど・・・。
 再び考え込み始めた鈴鹿の肩を、唯がポンと叩く。
「大丈夫だって。わたしが鈴鹿の力になってあげるから、何でも相談してね」
「うん、ありがとう」
 その言葉があまりにも嬉しくて、頬を染めて俯いた。
 友達、という存在は、とても心強く感じる。
 これまではずっと、従姉である由紀と同じ学校に通い、何をするにも彼女と一緒であり、何をするにも彼女が優先だった。それは、彼女の家に居候しているという負い目からなのかもしれないが、そう意識したことは無かった。
 だからこれまでは、親しい友達は彼女しかいなかった。彼女がいての、自分の世界だったから。
 けれどここには由紀はいない。
 この学園で初めて、鈴鹿は自分だけの世界を持つことになった。
 そのことにある種の開放感を味わい、同時に自分だけの世界を持つことに対して、由紀に後ろめたさを感じていた。
 自分は本当に、ここにいてもいいんだろうか?
 いつものように、自分に問いかける。
 あの日、あの事故から、ずっと。

「いいんじゃない?」
 唯の声にはっとし、顔を上げる。
 目の前では唯と香奈が楽しげに談笑しており、こちらを見てはいなかった。
 その言葉はおそらく、自分に掛けられたものではなかったのだろう。けれど、何故か泣きたいほど嬉しかった。
 自分が、ここにいていいんだ、と、言ってくれているようで。
 ただそれだけで、救われた気がした。

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