時の扉 闇の扉

時の扉 闇の扉 4

「何見てるの?」
横からのぞき込む気配に気づき、あわてて指輪を手の中に握り締め、背後に隠す。
見るまでもなく、それはセリアであった。
 彼女の顔を見て、そういえば、と、彼女に渡すように頼まれたもののことを思い出す。果たして、あれも素直にもらっておいてよかったものなのだろうか?
 その判断は自分にはできない。彼女に任せよう。
「あのね、これ」
古ぼけた一冊の本をセリアに手渡す。
「これ、どうしたの?」
当然ながら、訝る声がする。
「渡すように言われたの。セリアがこれを探しているだろうからって」
怪しげなその本を開いて、セリアはざっと目で文章を追い、目を見開いた。
「これ・・・どうしたの」
驚愕の余り声が上ずっていることが自分でも自覚できた。
 これは、自分が今まで探していて、見つからなかった本ではないか!
 セリアが持っていたのは写本であったが、今渡された物は原本だ。この場所にあっていいものではない。
 本を手にしたまま固まっているセリアの反応に怯え、おずおずと答える。
「さっき、男の人がくれたの。後、これを」
手を開いて見せる。その上には、二つの指輪が転がっていた。
 セリアはそれを手に取ってじっと眺めていた。爪で軽く石をたたいた後、それを陽の光に透かす。キラリと光を放つそれを、鑑定するかのように目を細めてじっと見つめた。
「聖晶石と、紫晶石か」
「水晶じゃないの?」
「ちょっと違うの。聖晶石っていうのは、最も硬い石と言われてるわ。これは、質も最高だし、すごい値がつくわね。こちらの紫色の石は紫晶石。聖晶石の一種で、この紫のものは少ないから、さらに高いかも」
何げなくセリアに言われ、美緒は青ざめる。そんなにも高価な物を、無造作に二つもくれた人物が何者なのか解らない。
 あの時、やはり無理にでも返しておくべきだったと後悔した。
「どうしよう。そんなものを・・・」
「もらっておけばいいわ。くれたんでしょう?」
「そんな簡単に・・・」
「じゃあ、もっていればいいわ。今度会ったときにでも返せばいいんじゃない」
「だって、会えるかなあ」
「会えるんじゃない?この指輪、見て、竜が彫ってあるでしょう、だから、ファイレム国に関係がある人物。これだけの品質だから、結構身分も高い人ね。んで、ここに紫晶石がはめ込まれているでしょう。紫晶石は大体貴族が身につけるものだから、その辺探せばすぐに見つかるよ」
と、セリアは簡単に言っているが、果たしてそんなに簡単に身分の高い竜族が会ってくれるのだろうか?
 女将が言うには、竜族はかなり恐ろしいらしい。ファイレム王国に足を踏み入れたら、帰れないような気がするのは気のせいだろうか。
セリアは指輪を返すと、その古めかしい本を開く。ぱらぱらと開き、ある場所でその手を止めた。
「あった」
美緒はのぞき込んでみたが、そこに書いてある文字を読むことはできなかった。
(あれ?なんで言葉は通じるんだろう)
今更ながらそんなことを考える。その答えは誰に聞いても出ないような気がする。
「なんて書いてるの」
しばらく無言で読みふけっていたセリアは、少し間を置いて答えた。
「うん、時空の扉を開けるには、かなりの力が必要なのよ。それと、思いどおりの場所へ移動するために、行きたい世界の物をもっている必要があるの。その物を、自然な状態に戻そうとする力に身を任せれば元の世界に戻れるってわけ。・・・わかった?」
「・・・なんとなく」
「でね、その時空の扉を開くためには三つの宝玉が必要になるんだけど、その場所が」
ぱら、と本をめくる。そこには三つの球の絵が描かれており、その下には説明がついている。もちろん美緒にはまったく読めない。それを読んでいるらしいセリアは、う~とうなって顔をしかめている。
「どうしたの?」
顔を上げると、そこには困惑した表情を浮かべている。美緒はいやな予感がしたが、早く聞きたいとばかりに促す。
「・・・もともと、聖獣の森のほこらにあったものらしいんだけど、今そこには一つしかないらしいわ。残りはどこにあるやら。見当がつくのは、一個しかないし」
「それって、どこにあるの?」
「ファイレム国の王宮」
セリアはさらりとそう言うが、美緒の顔は青ざめる。恐ろしい竜族の、本拠地とも言える王宮内?
「セ、セリア~」
情けない声を出す少女を見て、セリアは首を傾げる。
「どうしたの?大丈夫だって。残りの二つも見つけて見せるから」
そう言って片目をつぶって見せるが、もちろん美緒の心配事とは無関係である。セリアには、美緒が何を恐れているか、まったく気が付かない。
「まず、聖獣の森のほこらに行ってみましょう」
セリアはにっこりと笑っていたが、美緒にとってはそれどころではなかった。

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